最高裁判所第二小法廷 昭和39年(オ)144号 判決 1965年6月18日
上告人
井上憲二
代理人
三森武雄
被上告人
河田熙也
ほか四名
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人三森武雄の上告理由第一点について。
原判決の確定するところによれば、「本件宅地を所有する上告人は、これを訴外河田作介に賃貸していたところ、昭和一九年四月頃右作介より家庭の都合上本件宅地地上の作介所有建物を妻である被上告人河田熈也名義にしたいから本件宅地の賃借権を同人に承継させて欲しい旨の申し入れがあつたので、これを承諾し、右熙也を本件宅地の賃借人とするに至つた。熈也は、本件宅地上建物を所有しこれに居住していたが、昭和二〇年春の空襲によりその建物を焼失した。そして、昭和二三年春頃上告人の承諾なく本件宅地上に夫である右作介をして原判決添付目録第三記載の建物を、また、三男である被上告人河田敬三をして右目録第二記載の建物を建築せしめた。その後、右作介が死亡し、作介所有建物は熈也、敬三および被上告人赤穴達郎において相続によりその所有権を取得した。熈也、敬三、達郎はいずれも作介とともに本件建物の建築当時から一家をなして同一の生計を営み、本件建物に居住して来た。」というのである。
所論は、熙他が作介および敬三をして本件宅地上に建物の建築を許した以上、右建物の敷地部分に関する限り、熙也は本件宅地を同人等に無断転貸したものといわざるをえないというけれども、かりに所論のとおりであるとしても、以上の事実関係の下においては、賃貸人である上告人の承諾がなくても上告人との間の賃貸借契約上の信頼関係を破壊するに足らない特段の事情があるものというべきである。
されば、このような場合、上告人は熙也の右無断転貸を理由として本件宅地賃貸借契約を解除できず、また、右転借人らに対し建物収去土地明渡の請求をなしえないものと解すべきであるから(当裁判所昭和三二年(オ)一〇八七号同三六年四月二八日第二小法廷判決、判例集一五巻一二一一頁参照)、被上告人らに対する本件土地明渡請求を認容しなかつた原判決は正当に帰する。以上の次第であるから、所論は結局判決に影響のない違法を云々することに帰し、論旨は採用するに由がない。
同第二点について。<省略>
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(奥野健一 山田作之助 草鹿浅之介 城戸芳彦 石田和外)